11.  温度と光

 立地は沖縄が最適で、さらに加えて火力発電所の横に植物プランクトンの生産槽を設置する事にする。火力発電所からは温排水も出るし、排ガスも出るが、ここではまず排ガスを使って排ガス成分とその高い温度を利用する事にする。

 生物の増殖が温度とどのような関係にあるかはまだ明確ではない。植物プランクトンのような場合には先に示したように温度の効果はそれほど顕著ではなく、通常の化学反応の範囲とも考えられるが、もう少し高等生物になると温度の効果は化学反応では考えられないような値を示す。

 その一つの例が太平洋のカタクチイワシである。イワシは集団で回遊し、その挙動はかなり単純であるが、少なくとも脊椎動物であり、体の構造や増殖機構は複雑である。

 太平洋の海水温度とイワシの漁獲高の関係が知られているが、下のグラフに示したように1℃以下の変化で漁獲高は5倍にもなる。相関性という点ではかなり強い相関を持っていると言えるが、だからといって、この2つに確かな因果関係があるかは決定できない。

 ここでは第一回目の検討としてこのデータを使うことにする。温度と速度の関係はアレニウスプロットを作成して、その傾きから活性化エネルギーを求め、それを用いて任意の温度の関係を求めるのがもっとも一般的である。

 温度のアレニウスプロットは初学者でもすぐ書けるもので、カタクチイワシの場合のプロットを上の図に示す。このように温度の逆数と速度が直線の上に乗れば、温度が何らかの効果を持っていて速度が変化するとして良い。その点ではカタクチイワシの温度による変化は他の要因より顕著であると言えるだろう。

 この図を元にして活性化エネルギーを求めると、式は下に示すように簡単だから、すぐ求まり5800kJ/molとなる。縦軸に漁獲高を取っても単位としてはmolが出てくるのは、縦軸の問題ではなく、温度の単位がmol当たりだからである。

 温度はもともと分子などの振動エネルギーであるが、一分子当たりの振動エネルギーを温度の単位にすれば、kTと書け、mol当たりの温度の単位を書けばRTとなる。つまりkJ/molと表記する時のmolは温度の単位をどちらに取るかということを示していて、イワシの漁獲高とは関係が無い。

 ところで5800kJ/molという活性化エネルギーの絶対値はきわめて大きく、普通の化学反応ではほぼ「ありえない」と言って良い。だからといってこの値が間違っているとは言えない。太平洋の水温が少し変わるだけで漁獲高が大きく変わるところにその原因があり、アレニウスプロットを見る限り信頼性があるからである。

 おそらくは生物の生殖活動は食糧供給さえ順調にいけば爆発的な力を持っていることを示しているのだろう。そしてそれは高等動物ほど顕著なのではないかと考えられる。同じ計算を藻類で行うために水温と光合成量の関係を示すグラフを下に示した。

 このグラフは水温と季節という二つの関係が要因として入っているので厳密な温度の効果をみることができないことから、検討をつける目的で整理をした。

 このアレニウスプロットから求められた藻類の生産速度に関する活性化エネルギーは、45kJ/molであり、こちらは予想より少し少ない値を得た。

 いずれにしても温度による生産速度の見当がついたので、沖縄で火力発電所の近くに植物プランクトンの生産工場を作った場合、日本でも標準的な地域である愛知県の海岸に自然の状態で作った時と比較して約50倍の生産速度が得られる可能性があることが判った。

つづく