3.  海と陸 ・・・ まず「陸」から

 

 最近、バイオマスというのが、はやっている。「バイオマス日本」という計画があり、政府も真剣に取り組んでいる。「太陽の光を利用して育つ物を使おう」ということで、それ自体は大変に良い希望であるが、希望はそのまま行動しても上手くいくかは判らない。相手が自然だから慎重に考えたい。

 でも、本当に期待できるのだろうか?それは単なる希望であって現実ではないかもしれない。そこでまず事実をチェックしてみよう。

 地表に到達する太陽の光を100とすると、森林のように植物が密集しているところでもすべての光が植物を照らすわけではない。だいたい70%が植物に当たる光である。そして植物の葉の表面で反射や透過が起こり、またゴミに当たる光があるので、植物が光合成に使える光は57%になる。

 つまり地表に届く光の約50%が植物に当たる。もちろん、植物が植わっているところでのことであり、砂漠ではゼロであるのは言うまでもない。

 次に、植物が吸収した光を「セルローズ」のような植物の体にしなければならない。空気中の二酸化炭素と根からくみ上げる水を使って物質を合成するのだから植物は偉い。非常に複雑な反応を経て目的の物質を合成している。人間のような動物にはできないことである。

 太陽の光で化学反応を起こすためには、植物の体で高いエネルギーの状態のものがいるので、それを作るのに、効率はさらに下がって14%になる。そのエネルギーの高い状態から物質を作るとそこまでの効率は4.3%に落ちる。

 そして最終的な物質を作るまででは、最初の100の光のエネルギーのうち、3.9%が有効に使われる。簡単に覚えるには太陽の光で植物を育てる場合、太陽の光の25分の1程度、4%しか使えないと言うことを意味している。

 これをグラムで示すと、1年間で1平方メートルあたり3.6キログラムが収穫できることを意味している。もちろん、化学物質の合成だから「収率」はそれほど高くないし、また熱を放散しながら合成しなければならないので、熱効率も影響する。

 さらに栄養面では、土から水や元素を取らなければならないが、それも自由には取れない。さらに中心的な原料になる二酸化炭素は空気中に0.04%程度しかないのだから、植物にとっては踏んだり蹴ったりの悪い環境なのである。

 人間が植物を利用するとなるとさらに低くなる。太陽の光を利用して植物が合成する物質(セルローズなど)が3.6キログラムだから、これを利用して人間が・・・と考える。でもそれは身勝手なことで、植物は人間のために光合成をしているのではなく、自らの生存をかけて光合成をしている。だから、作ったものはまず植物が使う。

 つまり、もしこの3.6キログラムを人間が利用したら、植物は自分の体も作ることが出来ないし、生きるためのエネルギーも取られてしまう。ということは植物が芽を吹いた途端に死ぬということだから人間は利用できない。

 植物は自分で作った物質の3分の2を自分の生活のために使い、残りを「からだ」に蓄積する。だから人間が利用できるのは3.6キログラムの3分の1、つまり1キログラム少しで、これを太陽が降り注ぐ光のエネルギーを基準にすると1.3%になる。

 つまり最終的には太陽エネルギーの77分の1が利用できるというわけである。日本の国土の中には植物が植わっていないか、植えていてもそれを毎年、切って使うような目的ではないところも多い。名所旧跡もそうであるし、神社もいくら樹木が多いからといってそれを毎年、伐採するわけにはいかない。自然はエネルギーのためにだけ存在するのではないからである。

 そうすると、日本の面積でその3分の1ぐらいをなんとか樹木、田畑などに使用できたとして、太陽のエネルギーは約300分の1程度が利用できることを意味している。豊富に見える太陽エネルギー、それは確かに私たちに恵みを与えてくれるが、万能ではないかも知れない。

 太陽の光は陸上だけではなく、海にも降り注ぎ、海の利用はほとんど人間の手がかかっていない。それになんといっても生物は海から誕生しているし、光を遮る物が無い。しかも太陽の光は海流という形でもそのエネルギーを発揮する。つまり大陸棚に流れ込んでくる海流は広い海洋のエネルギーも含んでいるのである。

 そこで次回は、海も検討してみたいと思う。

つづく