生物と二酸化炭素
地球温暖化の原因物質として二酸化炭素が話題になっている。そして、「動物は呼吸をして二酸化炭素を出し、その分、植物が二酸化炭素を吸収して光合成を行い、酸素を出している。」と錯覚している人が多い。
この錯覚に乗じた訳ではないだろうが、二酸化炭素の問題をテコに森林の保護などを進めようとする役所や団体が「森林が二酸化炭素を吸収する」と言っているので、ややこしくなっている。でも特に若い人が世の中の「補助金争い」のために環境に対して間違った知識を持つのは感心しないので、少し解説を加えることにした。
植物は、大気中にある二酸化炭素を吸収して光合成を行い、「還元」してセルロースなどの「還元された炭素」を合成する。「還元」という言葉が少し難しいが、内容は簡単で二酸化炭素という酸素と炭素が結合した化合物が、炭素と酸素に分かれると言って良い。
成長期の植物は、その「還元された炭素」で体を作り、酸素を放出する。成長が止まると体を大きくする必要が無いので、毎日、自分で還元された炭素を作り、それをもう一度、酸素で燃やして生活をする。これが「定常状態の植物」で、見かけ上、二酸化炭素も酸素も放出しない。
やがて、その植物も老化し、体は少しずつ小さくなり、遂にその生命が終わると微生物が植物の体(還元された炭素)を分解(酸化)して植物の体は土に帰り、かつてその植物が若い頃に吸収した二酸化炭素と同じ量の二酸化炭素を放出して終わる。
自然とはかくのごときものである。
ところで動物はどうか?動物は光合成をせず、呼吸だけをするので一生、二酸化炭素を出し続ける。もし植物が一生を通じて二酸化炭素の収支がプラスマイナス・ゼロなら動物が出す二酸化炭素の分だけ、地球上に二酸化炭素が増えるじゃないか?と思う人もいる。
少しややこしいが、二酸化炭素の出入りを上の図に示した。空気中の二酸化炭素は植物に吸収され、植物が死んだら微生物の体に移り、やがて二酸化炭素になる。そして動物というのは「従属的」なものだから、植物の体を食べて動物の体を作り、死んだら植物と同じように微生物によって分解される。
つまり「二酸化炭素の出入り」のような基本的なことを考える時には、「動物」というのは「植物に寄生した生物」のようなものであり、これを「従属栄養」という。つまり動物というのは独立していない子供のようなものであって、親としての植物の体の一部なのである。
動物が吐き出す二酸化炭素は、まだ天寿を全うしていない植物の体を少し早めに二酸化炭素にしているに過ぎない。私たちが野菜を全部食べた場合には、その野菜の体は我々の体の中で2,3日の内には二酸化炭素になる。
ところが、人間は一番傲慢だが、動物も得てして傲慢なもので、自分たちが植物に寄生をしていることが判らない。その典型的な動物が「シカ」と「人間」である。シカは目の前にある植物を全部食べ尽くして大量に餓死することがある。この例を私は「リサイクルしてはいけない(青春出版)」で書いた。
そして、現代の環境問題は人間がシカと同じように、地球が有限で、酸素も二酸化炭素も有限、石油石炭も有限であることを知らずに、シカのように目の前にあるから食べるということしか出来ないところにある。動物でもオオカミ、ライオンなどは限界を知っていて、持続的生活をしている。
この話はもう一つ「なぜ、日本の専門家が「森林が二酸化炭素を吸収する」と間違ったことを言うのか?」という質問にも答えなければならないが、それは止めにしたい。これ以上、私は人間の批判をしたくないので。
おわり