高分子の燃焼と難燃(その2)

熱分解と燃焼

 導入部分としての最後に「有機材料はそのままでは燃えない。ガスになって初めて燃える」ということを示して締めくくりたい。
古くはロウソクには芯が必要なこと、最近では灯油を皿に入れて暖をとろうと思っても、もうもうたる煙にむせてしまうこと、お金がなくても石油ストーブかファンヒーターを買わなければ灯油を燃やすことができないこと、を考えたい。灯油もロウも、もちろん石炭やプラスチックもそのままでは燃えず、分解してガスになって初めて酸素と結合する。
 このことを科学的に証明した人がLyonである。彼は図 1の左に示したように材料そのものを成形して燃焼させる実験と、材料を熱分解炉に入れて窒素雰囲気下で熱分解させ、その時に発生するガスだけを細い配管で燃焼炉に導き、そこで初めて酸素と接触させて燃焼させるという実験をしたところ、図 1の右に示すように極めて優れた相関関係を得た1)。材料を不活性ガスの中で分解させてガスを発生させ、そのガスだけを燃やしても、材料を突然燃やしても単位重量当たりの材料から出る熱は同じである。つまり材料が燃えているように見えるが、材料が燃えるのではなく材料が分解したガスだけが燃えていることが証明されたのである。

          
図 1 Lyonが用いた装置(左)とLyonが得た結果(右)
(右は横軸は分解したガスを燃焼、縦軸は材料を直接燃焼した時の燃焼熱)


   アメリカ、ヨーロッパ、そして日本は世界の工学の三極という。その工業技術、特に電気電子製品を作り上げるという技術では日本がトップを走っていると言えるし、その国民全体が貿易黒字などの点から恩恵を受けていると言える。難燃材料もその一つであるが、残念ながら日本人が発見した新しい難燃材料はほとんどない。その原因は様々であるが、日本での基礎研究が不足していることが挙げられる。日本では材料の燃焼を抑制するなどという研究はその内容が如何に学術的に高度であろうと、その内容が科学的に面白かろうと、実学的という分類をされると基礎研究の枠内から外されるのである。しかしここで示したように有機材料の難燃化はその実用的な価値が高いばかりではなく、その歴史や現象そのものが極めて興味あるものであることをお判りいただければこの長い「はじめに」という文を書いた甲斐があったというものである。

参考文献

1)  R. E. Lyon, R. N. Walters, J. Anal. Appl. Pyrolysis, 71, 27-46 (2004)

第二回 おわり