コーンカロリメーター
1 コーンカロリメーターの原理と装置
1.1 歴史と原理
石油,石炭などの燃焼は内燃機関やその他の多くの熱機関が動力を得るために必要なことであり,加熱,暖房,さらには廃棄物の焼却に至るまで,社会の様々な分野で用いられる.そのため有機材料の燃焼を完全な形で理解しようとする研究は今世紀初頭から盛んに行われた.
有機材料の酸化反応についての基礎的研究,たとえば有機反応化学などの研究と共に,材料や機器,さらには住居などの実際の成型物,建造物などの燃焼の研究が行われた.有機材料の燃焼熱についての測定では,Table 1に示すようにブタン,ポリエチレンなどの炭素と2ヶの水素からなる化合物では45kJ/g程度であり,化合物や高分子物質の構造によって様々な値をとる.特にポリ塩化ビニルや綿などは発熱量が小さい.
1917年にThorntonは燃焼の研究で基本的な数値を発見した.それは有機化合物の種類によらず燃焼によって減少する酸素のグラム当たり, 約13.1kJの熱を発生するということであった .Table 1の右端の欄に測定値を示す.
Table 1 Heat of combustion and heats of combustion per gram of oxygen consumedfor some selected organic gases, synthetic polymers and natural fuels ![]()
Thorntonの発見が燃焼装置に応用されるには,発見から65年を要した.その間,燃焼時に発生する熱を正確に測定しようとする試みは数多く行われたが,そのいずれも良い結果をもたらさなかった.アメリカのNational Bureau of Standard(アメリカ内務省の標準局で,物理定数の測定や基準の作成に世界的に貢献した)のHuggettとParkerはThorntonの実験を詳細に確認し,ほとんどの有機材料の燃焼において,Thornton数は,13.1kJ/gであり,その誤差は5%に過ぎないことを明らかにした , .
1982年にBabrauskasがHuggettとParkerの研究を応用し,燃焼時の熱量測定装置を開発し,コーンカロリメーターをして完成した.その後,様々な改良が施され,現在の完成されたコーンカロリメーターとして一般的に用いられるようになった.
1.2 装置の概要
コーンカロリメータは熱速度測定する装置である。コーンカロリメーター(ATLAS社製CONE2)の外観図をFigure 1に示した.
![]()
Figure 1 Cone calorimeter (Atlas Cone2, 東洋精機提供)
![]()
Figure 2. Cell of cone calorimeter
![]()
Figure 3 Outline of Cone calorimeter
コーンカロリメータは試料を均一に加熱するために円錐型のヒータを使用し、試料は試験中その質量を常時測定するロードセル上に置かれる。高電圧スパークを使って加熱された試料に点火する。点火後燃焼ガスは密閉システム内をある特定速度で流れ、分析の為に収集される。煙道内で、レーザー測定器を使い煙り濃度を測定する。試験中得られた各パラメーター用データはコンピューターによって処理される。
材料の安全性の予測は酸素消費量測定法を使って行う。酸素消費量測定法とは物が燃焼するとき消費する酸素1kg当たり13.1MJのエネルギー放出によっている。コーンカロリメーターでは燃焼ガスの酸素濃度と流速を高精度に測定し、酸素消費量から熱放出量を算出する。
2 コーンカロリメーターの燃焼理論と得られるデーター
2.1 燃焼理論式
コーンカロリメーターで有機材料が燃焼するときの反応式として,まず燃焼反応場での燃焼反応,高分子表面での反応,及び高分子内部での分解反応が上げられる.まず,ポリマーの分解で燃料が供給されるので,ポリマー分解の反応式は式(1)で示される.
(1)
ここで,
![]()
である.また,可燃性ガスはポリマの分解で生じ,燃焼反応場で消費される.従って,可燃性ガスの収支を示す反応式は,
(2)
であり,ここで,
![]()
である.さらに燃焼反応場の酸素の収支は燃焼で消費される酸素と周辺から拡散で供給される酸素によって決まる.周辺からの酸素の供給を示す拡散は拡散係数を係数とした位置の2次微分で決まるとするのが普通であるが,この場合は数値計算上の問題で次のような式が望ましい.
(3)
ここで,拡散定数の変わりに比例定数を用い,
とできる. 燃焼時の熱的な支配方程式としては,燃焼反応場,高分子について,上記の物質的支配方程式と同様に,それぞれ下式のように書くことができる.まず,燃焼反応場の熱収支は,
(4)
であり,ここで
![]()
である.また,高分子の熱収支は,
(5)
と書け,それぞれ
![]()
である. 燃焼反応場での速度定数や環境からの酸素の拡散や分解ガスの拡散は単純な式では示すことが出来ない.燃焼時の素反応の速度定数は1つ1つの素反応の速度式を書き下さなければならないが,反応が極めて複雑で素反応を総て書くことは困難であるばかりでなく,かえって解析を複雑にするだけで成果は上がらない.現実的な方法は,注目すべきいくつかの化合物を考えて,総括的な反応速度と拡散係数を次式のように表すことであろう.
以上の式はある程度近似的に表現されているが,それだけに直接的にコーンカロリメーターで測定されるデーターからパラメーターを決めることができる.
2.2 理論式の数値解とデーター
理論式に使用する定数については研究者によって少しずつ異なる数値が使用されるが,ここではRychly,Costaらの数値を例示する .
Table 2 The basic set of parameters used for modelling of the rate of heat release rate according to the system of equations. ![]()
この基本的な数値に基づいて,ヒートフラックス(heat flux)に対する発熱速度(RHRまたはHRR: the rate of heat releaseまたはheat release rate)の計算値をFigure 2に示す.
![]()
Figure 4. The effect of the heat flux on the rate of heat release for a system of parameters in Table 2. Heat flux is expressed by the temperature of the gas To (1)To=778K (25kWm-2), (2)T0=912K (40kWm-2), (3)To=1024K (60kWm-2), (4)To=1065K (70kWm-2)
ヒートフラックスが高いと材料は一気に燃焼するので,RHRのカーブは早期に出現し,高いピークを打つ.ヒートフラックスが小さくなると燃焼までの時間が長くなり,燃焼の一気には進まない.ヒートフラックスがある一定値より小さくなると,材料は燃焼しない.これについては後述する.
高分子の種類が変化して燃焼エンタルピーが変化すると,RHR曲線は変化する.燃焼エンタルピーが大きいと,燃焼反応場からの伝熱量が大きくなり,その結果高いRHR曲線を得る.曲線1はポリプロピレン(PP),曲線2はポリメチルメタクリレート(PMMA),さらに曲線3はポリ塩化ビニル(PVC)の燃焼エンタルピーを想定している.
![]()
Figure 5. Plot of the rate of heat release on time for (1)ΔH1=46000 Jg-1 (2)ΔH1=26000 Jg-1 (3) ΔH1=16000 Jg-1, ΔH2=13000 Jg-1,T0=912K (40kWm-2) ΔH0=450 Jg-1,β1a=0. Other parameters were the same as in Table 2.
この様にRHRの曲線を考えると,RHRのピークの値である程度の整理ができることが判る.RHRのピーク値は"PkRHR"と表現されることが多い.PkRHRと酸素指数(LOI)の関係図をFigure 4に,関係式を数式 1に示す.
![]()
Figure 6. The correlation of LOI computed when changingΔH1(line A) andΔH2 (line B) parameters in the system parameters of Table 2 with peak rate of heat release (PkHRR). (β1a=0); ΔH1=32500 (1),39000 (2),46000 (3)J mol-1 . ΔH2=5200 (4),6500 (5),13000 (6) J mol-1
数式 1
![]()
コーンカロリメーターの測定値は有機材料の標準的な燃焼データーであるので,「酸素指数」の様にある特定の条件下での測定値は,コーンカロリメーターでの測定値の内の1つに相当する.その意味でコーンカロリメーターは有機材料の燃焼での万能測定装置といっても良いであろう.
2.3 コーンカロリメーターで求められる標準的測定条件とデーターの種類
2.3.1 典型的な実験方法
試料形状は100×100mm2×3.2mmであり、試料が熱の輻射により膨張して試料形状が変形しないように輻射面以外をアルミホイルで包む。試料は試料ホルダーに置かれ、ロードセル上にセットして高電圧スパークにより点火される。点火された試料は円錐型のヒータによって熱を均一に輻射される。
2.3.2 典型的な実験の処理方法
点火後輻射による試料の分解ガスはダクト内を一定速度で流れ、酸素分析計により酸素濃度を測り、酸素消費量から熱放出量を算出する。また煙濃度レーザー測定器を使い煙濃度を測定する。
2.3.3 データーの種類とその内容
コーンカロリメーターから得られる情報は極めて多いが,そのうち良く使用されるもので,すでに規格化されているものを下に示す.これはコーンカロリメーターで得られる情報の一部であることを認識する必要があろう.
Table The definitions, units and abbreviations of parameters reported from the cone calorimeter. ![]()
3 コーンカロリメーターの典型的な測定結果
3.1 種々の高分子のIDT, PkRHRなど
種々の高分子のコーンカロリメーターによる典型的な測定値を示す.有機材料は分子量,末端構造,添加物などが一様ではなく,化学化合物のように,「どの材料が常に同一の値を示す」と言う物ではないが,射出成形用などに合成された通常の構造と分子量を有する高分子の場合には,Table 3を参照にすることができる.
Table 3 Values from Cone Calorimeter testing of Various Polymeric Materials ![]()
3.2 典型的なデーターの処理とグラフ
もっとも基本的はグラフは,ヒートフラックスとRHR曲線である.同じ有機材料を用いてヒートフラックスを変化させると,に示したようにヒートフラックスが大きいほど速く着火して,RHR曲線の極大値(PkRHR)は大きくなる.これはFigure 2に示した理論計算曲線とも一致する.
![]()
Figure 7. Heat release rate of PVC at irradiances of 20kW/m2(+), 30kW/m2(■)、40kW/m2(○)、and 50kW/m2(△)
Figure 5と同様なグラフで,PAN(ポリアクリロニトリル)のデーターを示す.
![]()
Figure 8. Heat release rates of PAN homopolymer at various heat flux levels
エンジニアリングプラスチックの代表的なものの一つであるPPE(ポリフェニレンエーテル)にリン系の難燃剤を混練すると,燃焼と共にPPE表面にチャー層が形成されて,PPEの分解が抑制され,燃焼は抑制される.この状態をコーンカロリメーターで観測した結果をに示す.
![]()
Figure 9 Heat Release Rate of PPE/PS=75/25 alloy
PPE/PSアロイのうちPPEの含有量の多いアロイはもともと難燃性で,燃焼は激しくない.HRHは約500程度の値が得られる.また,難燃剤を混練したときでも,燃焼の状態は大きく変化しない.
![]()
Figure 10 Dependence of HRH on combustion time
これに対して,PPE/PS=50/50の場合には燃焼は少し激しくなり,難燃剤を混練することにより,燃焼力が弱まり,徐々に燃焼することが判る.この傾向は次のPPE/PS=25/75の場合は更にはっきりとしている.
![]()
Figure 11 RHR in the case of PPE/PS=25/75
4 燃焼雰囲気と燃焼特性
酸素指数により有機材料の燃焼性を判断するときに,雰囲気ガスを酸素とチッソの混合気にする場合や,NOを用いる場合がある.この様に雰囲気ガスを変化させることによって燃焼の状態をより詳しく解析することができる.コーンカロリメーターで雰囲気ガスを変化させるとどのようなデーターを得ることができるかをFigure 13に示す.
![]()
Figure 13. Rate of heat release, average mass loss rate versus Oxygen concentration (PMMA)
![]()
Figure 14. Rate of heat release, average mass loss rate versus Oxygen concentration (Flow rate at 15 l/s , PMMA)
![]()
Figure 15. Char yield versus Oxygen concentration (PU/H)
![]()
Figure 16 Effects of specimen thicknesses on heat release rate of PAN homopolymer at 50kW/m2
IDTは着火温度であり,この着火温度はヒートフラックスに依存する.IDTの逆数とヒートフラックスのグラフを描くと,IDTの逆数はヒートフラックスに比例するので,横軸の交点を求めると,それが「着火臨界熱流束(critical heat flux)」になる.主としてエンジニアリングプラスチックの実験から,着火臨界熱流束を求めるグラフ,及び求められた着火臨界熱流束をTable 4に示した.
![]()
Figure 17 Linear dependency of ignition delay time vs. Irradiance.
Table 4 Critical Heat Flux for Polymers
![]()
5 難燃材料研究のデーター
5.1 PPE/PSアロイのデーター
本実験ではガラス転移温度が210℃を有する耐熱性の高い樹脂PPEとガラス転移温度が100℃と低いが流動性に富むPS、またPPEとPSの相溶アロイ(PPE含有率25%、50%、75%)を使用した。コーンカロリメーターを用いた難燃性の評価には発熱速度を用いて比較することにしたFigure にその結果を示す。
![]()
Figure Heat release rate of PPE and PPE/PS alloy
Figureより各ポリマーの着火遅延時間の差はほとんどない事が見られた。発熱速度の立ち上がりではPPE含有率が大きくなるにつれて低くなり、特にPPE含有率が75%以上の場合では1度低い立ち上がりを見せてから発熱速度が上昇する傾向が見られた。
5.2 PPのイントメッセント系
![]()
Figure One dimensional intumescent model
5.3 PPとフィラー材料の研究
![]()
Figure Average of heat released rate after 180s for PP composites
![]()
Figure 18. Average of heat released rate after 180s for PP composites (conversion of HRR of PP composites into HRR of PP)
![]()
Figure Peak of heat release rate of PP composites
![]()
Figure 19 Peak of heat release rate of PP composites (conversion of HRR of PP composites into HRR of PP)
![]()
Figure Time of ignition of PP composites
![]()
Figure Ratio time to ignition to peak of rate of heat release for PP composites (conversion of HRR of PP composites into HRR of PP)
![]()
Figure Ratio time to ignition to peak of rate of heat release for PP composites
![]()
Figure Average production CO2 / CO ratio versus Oxygen concentration (PMMA)
5.4 従来の難燃指標との関係
理論の所に従来の難燃指標との関係についての理論計算の結果を示した.理論的にある程度の相関性が認められるのは当然である.コーンカロリメーターは特定の条件下での燃焼発熱を測定するものであり,雰囲気ガスと燃焼速度には明らかな関係があるからである.
![]()
Figure The relation of Peak heat release to Oxygen index
文献リスト
1) Leslie J.Goff:Polymer Engineering Science Vol.33 , No.8,(1993),
pp497-500
2) J.S.Pisipati and W.J.Eicher :Joural of Reinforced Plastics and Composites,Vol13,(1994)
5) J. Zhang , G. W. H. Silcock : Joural of Fire Sciences, Vol, 13 ,(1995)141-161
6) S. Bourbigot, M, Le Bras and R. Delobel : Joural of Fire Sciences, Vol, 13 ,(1995)3-22
7) M. Robert Christy, Ronald V. Petrella , and John J. Penkala : Fire and Polymers Chapter 31(1995)498-517
8) M. I. Nelson, J. Brindley and A. Mcintosh : Combust. Sci. and Tech, Vol. 104(1995)33-54
9) J. S. Pisipati and W. J. Eicher : Journal of Reinforced Plastics and Composites , Vol. 13 (1994)1071-1099
10) H. CreyF, R. Hurd and D. A. King :
11) John P. Redfern : Int. J. of Materials and Product Technology , Vol. 5, no. 4 ,(1990)349-366
12) Takashi kashwagi, Atsumi Omori and Thomas G. Cleary : Flame Retardancy Polym. Mater , Vol. 3(1992)30-52