葉の日焼け



1.  葉は日に焼けるか?

 植物の葉もわたし達と同じ「高分子材料」でできているため太陽からの紫外線には弱く、日に当たると傷がつく。動物でも太陽の光は危険であるが、動物の場合は多少の日光浴は必要でも、太陽の光で光合成を行ない、生命エネルギーを得ているわけではないので、あまりに太陽光が強ければ日陰に入れば良い。

 事実、夏のじりじりした太陽の光が照らす砂浜には動物の姿を見つけることは出来ない。日中の激しい太陽の光を避けてどこかに隠れているのである。しかし植物は隠れることはできないのでどんなに太陽の光が強くても、気温が高くてもジッと海岸で立ちつくしている。

 植物は動くことが出来ないだけではない。動物と違って太陽の光で光合成をしなければ生きていくことは不可能である。植物の葉は光合成を行うために作られているのである。つまり、生命エネルギーを獲得するためには太陽の光は可能な限り多く浴びなければならないし、当然ではあるが強い光の方が光合成が進む。

強い太陽の光がなければ生きていけないが、体が痛むのも避けられない。このジレンマを植物はどのように回避しているのだろうか?

まず太陽から地上に降り注ぐ光のスペクトル(波長と強度の関係)を図 1のグラフで示す [1]。


図 1 太陽光のスペクトル(大気圏外と地表)



 波長が400-800nmが可視光だから紫外光も赤外光も少しずつあることがわかる。エネルギーを基準とすると、紫外光が全体の6%, 可視光が52%,そして赤外光が42%という割合である。

光合成に必要な光を捕捉するのには葉の表面にある色素を使う。それが光を捉え励起して次の反応に使わなければならない。植物が使う色素とその吸収スペクトルを図 2に示した。


図 2 植物が使用する色素の吸収スペクトル



 一つの色素では太陽光の全領域をカバーする訳にはいかないので、複数の色素を使ってできるだけ吸収効率を高くする工夫をしている。しかし、光合成の総合エネルギー効率は1%内外である。このことはまた別の機会に詳しく触れることにして、ここではおおよそのことをつかんで全体像を明らかにすることに主眼をおくことにする。

このように太陽の光には短波長のものが含まれるし、葉は樹木の最外郭の構造体であるため、紫外線は葉を直撃する。従って、葉を作っている高分子は損傷を防ぐことができない。そこで表面は、定期的に古い表面を捨て新しい高分子を合成して入れ替える。内部は自己的に修復する能力を持っている [2]。

植物にとっては、光合成に利用できる波長以外の光は、なるべく表皮細胞で防御したいのは当然であり、特に400nm以下の紫外光が内部の組織に侵入するのが困る。完全な紫外光なら光合成にも要らないが、400nm付近の波長の光の場合は、細胞を壊さない程度で取り入れなければならない。

このように波長によって選択をするには人間が分光器を使うのと同じで、複数の紫外線フィルターと光酸化剤によって選択する。

あまり物理化学などで使用する分類ではないが、紫外光はUV-A,B,Cに分けて整理することが多い。波長が長く比較的安全なUV-Aは還元作用をもつ抗酸化剤を使用し、より波長の短いUV-B紫外線によって共鳴構造をとる吸収剤を用いる。


2.  フラボノイド系の紫外線防御メカニズム

化合物の種類は一種類ではなく、多くの物質が表皮細胞の液胞中に1~10mMの濃度で存在している。生物の防御はともかく複雑であるが、この場合も同様で、フラボノイドやその他の吸収剤、抗酸化剤は化合物として液胞中に存在し、フラボノイドのポリマーであるタンニンなどは表皮細胞に均一に存在する。

ともかく、直接的に細胞を破壊する作用をもつ紫外線は薄い表皮細胞で90%遮断される。もっとも植物の葉が真っ黒ではなく緑であるということは葉の表面で光が反射してることを示していて、その量はおよそ10%程度と考えられる。つまり葉の光の吸収効率はまず表面反射で90%に下がることを意味している。


図 3 葉の立体構造と防御の場所



植物の葉は表皮細胞にある紫外線吸収剤で20-75%の紫外線を吸収して組織の劣化を防ぐ。フラボノイドの吸収様式はクマロイルCoAとマロニルCoAがカルコシンターゼによってカルゴンを生成し、さらにフラバノン、フラボン、イソフラボン、フラボノール、そしてアントシアニジンを合成するルートで紫外線を吸収する(図 4)。


図 4 フラボノイド類の反応ルート


 
3.  非フラボノイド系の紫外線防御メカニズム

フラボノイド以外にもシナビン酸、クロロゲン酸など他種類の紫外線吸収剤を動員して防御している。植物の「日焼け防止」の反応は興味つきないものがあるが動物の防御よりさらに複雑なので、ここではどのような防御材を使っているかを示すだけにする。


図 5 植物の非フラボノイド系の紫外線防御剤



つまりこのように植物の葉の紫外線防御機構はきわめて複雑であることがわかるが、波長が短くエネルギーが高いUV-B(λ=280~320nm)は直接細胞を分解させるが、UV-A(λ=320~400nm)はフラビンなどの細胞内色素を励起して増感反応で活性酸素を生成し、それが二次的に細胞の成分を劣化させる反応経路をとることが多い。つまり図 6に示したようにまず色素が励起し、励起した色素に酸素が反応して励起状態の酸素が生成し、さらにそれが細胞成分を破壊するという訳である。


図 6 紫外線による損傷と防御のメカニズム


 
 植物の葉の劣化という意味ではここに整理したことはそのホンの一部でしかない。でも、人工的な材料に自然の叡智を取り入れていくという研究では、植物自体の専門ではないのでこのような整理から進め、人工的材料との橋渡しを進めていかなければならない。
終わりに、本論をまとめるにあたって次の本を参考にさせて頂いた。このまとめは研究に視することを目的としているので、特に執筆者に引用をお断りしていない。ここに深く感謝を申し上げます。

参考にした本など

[1] 渡邊正、中林誠一郎、「電子移動の化学」、p.84 朝倉書房 (1966)
[2] 市橋正光, 佐々木正子編:生物の光障害とその防御機構, 共立出版, 19 (2000)