― 太陽は原子炉だから ―

 46億年前に地球が誕生して「すぐ」・・・いや、実は「すぐ」といっても9億年も経ってからだが、地球上に生命が誕生した。岩や石だらけで命のかけらもないところから生命が誕生したのだから、それだけでも驚くべきことだ。なぜ「石から命が生まれるのか?」については、このホームページでも解説したので、ここでは先に進むことにしたい。(詳しくは、人生の鱗・科学者の目 其の十五 ―命はどこから来たのか?― を参照)

 37億年前に地球上に生命が誕生した。しかし、その生命は最初から大きな矛盾を抱えていた。それは、「太陽の光があるから生きることができる」「太陽の光を浴びると死ぬ」ということだった。

 太陽の光は大切であり、且つ危険だった。その理由は次のようなことだった。

 生命が誕生したばかりの時には、「命を保つための肝心なもの」だけしかなかったが、そのうち自立できるようになってくる。それが、空気の中の二酸化炭素と、太陽の光で光合成を行い、それで栄養を作って生活をするということだった。

 原始地球の大気中には二酸化炭素が多かったから、原料は豊富にある。そして生産のエネルギー源は太陽の光だから、これも「タダで無限」だ。こうして原始生命は二酸化炭素を食べ、太陽の光で生活を始めた。


(私たちの地球を作ったストロマトライト)

 その後、35億年前から15億年前までの20億年間、地上に誕生した生物は営々として光合成を行い、自らの命を保ち、そして空気中の二酸化炭素を酸素に変えていった。

 光合成をするためには太陽の光がいる。太陽の光が強ければ強いほど、エネルギーをたくさん取ることが出来るのだから光合成も速くなる。そして、光合成が速ければ栄養をたくさん作ることができるので、それだけ子孫も増やせるから他の生物との競争にも勝つことができる。

 そこで生物は地上に出てきて太陽の光を浴びた。・・・しかし、いつも先頭を切って時代を切り開くものは罰を受ける・・・地上に出た生物は太陽の光を浴びて全滅したのである。その理由は簡単だ。

「太陽は原子炉だから、原子炉からの放射線をそのまま浴びれば死ぬ」ということだ。


(太陽の表面)

 これが太陽の表面である。激しく燃える水素やヘリウム・・巨大な原子炉で核融合が起こっている・・、そこからは強力な放射線が宇宙に飛び出しているのである。太陽から地球まではかなり遠く、光でも8分15秒はかかる。でも強い放射線はそれほど弱くはならない。

 地上に出た生物は、太陽からの放射線や紫外線を浴びてたちまちDNA障害を起こし、死んでいった。先頭を切って地表に出た生物が全滅しても、慎重派の生物は海の中や土の中で生きていた。そして「今度、地表に出る時には、放射線や紫外線を浴びても平気なように体作りをしなければ・・・」と決意した。

・・・というのは正確ではない。生物の進化ということで、もう少し科学的に表現すると、「紫外線で体内のDNAがやられても自分で直すことのできる生物が、より地表に近づくことができ、その分だけ太陽の光を余計に浴びることができるので、競争力が高くなり、生き残った。結果として、自分でDNAを修復することができるようになった生物が生き残った。」というのが正しい。

 いずれにしても、生物は少しずつ体の中に「紫外線で体が傷んでも、自分で修復することができる」という能力を身に付けていき、それを武器にして少しずつ少しずつ地表に近づいていった。それは「より多くの太陽の光を利用することができる」ことを意味していたから、光合成の速度も上がってきた。

 海の中の生物が大量に酸素を吐き出すようになると、海の中に溶けていた鉄が酸化され始める。鉄はどんどん酸化され、沈殿し、赤茶けた大地を作っていく。そして、海の鉄がすっかり酸化され、空気中の酸素が急激に増え始めたのは、20億年前と言われている。

 空気中の酸素はさらに上空に行き、成層圏に達する。そして、そこで酸素はオゾンになり、オゾン層を作り出した。これで35億年前から生物が吐き出してきた酸素は最終段階を迎える。生物が吐き出した酸素によって成層圏にオゾン層ができ、そのオゾン層は太陽からの有害な放射線や紫外線を通さないという特徴を持っていたのである。

 太陽の光を恐れ、それでも太陽の光が必要な生物は、地中や海中でひっそりと活動をしていたが、それらの生物は、「自分たちの吐き出した酸素が、やがてオゾン層を作り、それが自分たちを有害な放射線や紫外線から自分たちを守る」などとは知らない。結果的にそうなっただけである。

 ともかく、オゾン層ができて太陽という原子炉から放出される有害な放射線や紫外線はシャットアウトされて、地表に届かなくなる。それから生物は地表に出てきて、生物の大繁栄時代が始まろうとしていた。

 それが、8億年前のことだった。

 しかし、命の爆発には少しタイミングが悪かった。なぜなら、その時、地球は「現在のように」冷えていて、生物が繁殖するには少し寒かった。超氷河期と呼ばれる冷たい時期だったのである。その時代が2億年ほど続き、今から6億年から5億5千万年ほど前、地球は温暖化し、すでにオゾン層は出来ていたので、生物が繁殖するのに何の障害も無くなった。

 「カンブリア爆発」と呼ばれるカンブリア紀が訪れたのである。すでに体内に「DNAが紫外線でやられたら自分で修復する」という能力を持っていた生物は爆発的に繁殖したのである。

おわり