13  多層系およびAuの拡散

13.1 多層系の界面


 以上の様にSn-Cu系では二つの金属間化合物が生成するのでその拡散を丁寧に扱おうとすると必然的に多層系の拡散の問題を取り扱わなければならない。
 
Figure 131 多層系拡散のモデル(TMSA730)

R 131 Erickson, K. L., Hopkins, P. L. and Vianco, P. T., J. Electronic Materials, Vol.28, No.8, p.729 (1994)

Table 131 Sn-Cu間の化合物の密度(R 4-8 TMSA731)

Table 132 Sn-Cu間の化合物の拡散係数(R 132  TMSA733)


13.2  AuとSnの界面
 
  はんだがSnを含み、基体金属がAuの場合にもSn側からAuSn4,AuSn2,及びAuSnの金属化合物の層が形成されるが、この金属化合物は150℃、300hrで50μmに成長する。(Wassink, 1989) またはんだがSnを含み、基体金属がAgの時にはAg3Snが安定して生成する。
 
Photo 131 AuSn4の生成

R 133 Kramerのドクター論文:University of California, Berkeley, (1992)

 この様に基体金属から金属元素が拡散してはんだ相で金属間化合物を生成する例はAuでも認められている。Photo 131の写真はAuSn4が生成するときのものである。
 
 はんだの中にAuが侵入してAuSn4の組成からなる金属間化合物が生成しているのが見える。Photo 132の写真は同じ様な過程で生成したIn2Auの化合物ができているものである。 接合界面というのははんだの場合でも接着や溶接の場合でも、化学反応と物理的空間的要素との混合現象であるので、その性能は1つの尺度では表すことができない。
 
 しかし接合力が強く、速やかに接合するためには接合する材料相互の親和性が高く、接合界面ができるだけ凹凸があり、できれば材料どうしが相互に拡散したり、反応したりする方が望ましい。時には水素結合が主体的な役割を果たすこともあるし、はんだの場合には金属化合物の層が接合を容易にする。
 
Photo 132 In2Auの化合物

 しかしどんな組成のはんだでも金属間化合物を形成し接合するわけではない。Inの含有量の多いはんだの場合には接合界面で金属化合物の生成が見られなくても充分な接合が得られるとの報告もある。(Belser,1979; Chalco,1983; Keeler,1987)
 
  また継続的にはんだ接合面に熱が掛かるとそこで金属間化合物が成長し、接合界面に層を成すようになる。層を成すと言うことは部分的に異種の材料が入り組んでいるのではない状態になるので、接合は弱くなる。
 
 つまり、接合は異種の材料がお互いに食い込んでいるような状態が望ましいので、たとえ金属間化合物のように異種の材料の丁度中間的な材料が接合面を覆っても、お互いに食い込んだ状態ではなく、層状になると接合の意味はなくなるということになる。はんだにおいても接合、接着の一般的な原理原則は当然の事ながら保たれると言うことを意味している。


(キーワード: 名古屋大学 武田邦彦)

14につづく