8  Sn-Pbはんだのミクロ構造

 標準的なはんだでもっとも多く用いられるはんだ材料の組成はSn-37Pbであり、Sn-Pbの組成が異なるものも用いられる。また無鉛はんだの一連の材料、Sn-Ag, Sn-Bi, Sn-In,またSn-Znなどがある。Sn-Pbはんだは典型的なはんだで、その特性や構造もよく調べられている。

 共晶組成のSn-Pbを共晶温度からゆっくりと冷却していくと、Sn=62.9の共晶組成でPhoto 81に示すようなミクロ構造を有する共晶はんだを得る。

Photo 81  Sn-Pb共晶はんだミクロ構造
R 8-1 Frear, D. R., et. al., “The Mechanics of Solder Alloy Interconnects”, van Nostrand Reinhold, (1994) New York

 Photo 81では層状に分相した2つの異なった組織が観測される。白く見える方の組織がSnで、黒く見える方の組織がPbである。組成はSnが62.9で、Pbが37.1であるがSnとPbの比重が異なるので、体積比としては異なる。このためPhoto 81で見られる組織の容積比率はあまり違わない。2つの相が分相して図のような形を取るとき、どちらかの相が材料構造全体の特性を支配するときが多い。
 
 この支配的な相を「マトリックス」と呼ぶことが多いが、このマトリックスは立体的に繋がっていることから「連続相」と呼んで良いものであり、あるいは材料全体の特性を支配すると言う意味からは「骨格」としても良い。標準的に用いられるSn-37Pbのはんだの場合には顕微鏡写真で見られる2つの組織のどちらが「連続相側」であるかは明白ではなく、2つの相が絡み合っている組織が観測される。
 
Photo 82 Sn-37Pbはんだ組織のマクロ境界

R 8-2 Mclean,M., “Directionally Solidified Eutectics”, The Metals Society, London, (1983)
R 8-3 Shewmon, P. G., “Transformations in Metals”, J.Williams Book Co., (1983)
R 8-4 Elliott, R., “Eutectic Solidification Processing”, Butterworths, London (1983))

 層状の組織ははんだの全体にわたっているのではなく、Photo 83のように2つの層状の組織が界面を形成している所がある。この様な場所はやがて力学的な特性や経時特性に影響を与える。
 
Photo 83 Optical micrograph of a eutectic Sn-Pb solder afer recrystallization.

 共晶はんだのミクロ構造はこの様に極めて細かい組織を持っており、全体積当たりの2つの相の間の界面の面積は極めて大きい。そのため界面のエネルギーが高く、安定な状態ではない。その結果、エージングや再結晶によって組織は大きく変化し、界面の面積は減少する。Sn-37Pbはんだは標準的なはんだではあるが構造的には不安定で経時的に力学特性の変化が見られる。

 材料としての「はんだ」の場合には定温で容易に溶ける元素とその組成が選択されるし、はんだで接合した機器や部品は必ずしも低温で用いられるとは限らない。その結果接合に用いられたはんだは常にある程度の熱、あるいは力学的影響でその組織が変化する原因を持っている。
 
 Photo 83はSn-Pb共晶はんだを再結晶させたもので、線状の分相構造から粒状の分相構造に変化していることが判る。再結晶によって分相状態は粒状に変化し、全体積に占める界面の面積は減少する。

Photo 84 Rapid solidification of Sn-Pb eutectic solder)

  再結晶して得られるSn-Pb共晶はんだの粒状分相構造は共晶組成のSn-Pbの溶融体を急速に冷却した時の構造に極めてよく似ている。急冷で得られた共晶はんだの顕微鏡写真をPhoto 84に示す。

R 8-5  Morris, J. W., Tribula, D., Summers, T. S. E., and Grivas, D., “The role of microstructure in thermal fatigue of PB-Sn solder joints”, in John J.Lau, edi., “Solder Joint Reliability”, Van Nostrand Reinhold, New York(1991)]
R 8-6 Morris, J. W., Tribula, D., Summers, T. S. E., and Grivas, D., “The role of microstructure in thermal fatigue of PB-Sn solder uoints”, in John J.Lau, edi., “Solder Joint Reliability”, Van Nostrand Reinhold, New York(1991)]

 急冷されたはんだも基本的には粒状に分相しているので、再結晶で得られたはんだとミクロ構造は同じである。この様な分相を「滴状分相」と言う。熱でアニーリングを行った場合でもはんだの構造はより安定な方向へ変化するので粒子はPhoto 85の様に粗大化する。
 
Photo 85  粗大化した組織

R 8-7 Cline, H.E., and T.H. Alden, Trans. AIME, Vol.239, pp.710-714 (1967)
R 8-8 Avery, D. H., and W. A. Backhofen, Trans. ASM, Vol.58, pp.551-562 (1965)
R 8-9 Morrison, W. B., Trans. AIME, Vol.242, pp.2221-2227 (1968)
R 8-10 Kashvap, B. P. and G. S. Murty, Mat. Sci. and Eng. Vol.50, pp.205-213 (1981))

 次に同じく溶融したはんだの冷却と構造の関係ではあるが、大量の溶融はんだを一定の条件で冷却したのではなく、はんだの量が少ないので熱容量が小さいことから急冷したものと同じ条件になったものの構造を示す。
 
Photo 86 急冷したときの組織

 実際にはんだを使うときは量の多いはんだをゆっくりと冷却するときばかりではない。多くは少ない量のはんだを使うので溶けたはんだの熱容量が小さく、周辺の温度が低いときは急激に冷却される。Photo 86は小さなはんだのスポットの顕微鏡写真である。白い方がSn,暗い方がPbである。


9につづく