4 . はんだ合金の状態図

4.1  はんだ材料の概要


  無鉛はんだの基本となる金属は鉛の替わりとしてこれから長く使用できると言うことが前提であるので、当然の事ながら、資源的に安定で、毒性が少なく、そして安価であることが前提である。そのようなものとしてはSnがもっとも一般的なものであることから無鉛はんだのベース金属としてはSn-9Zn、Sn-58Bi, Sn-58Bi、Sn-3.5Agの4種が研究されている。
 
 無鉛はんだというのはこれまでのSn-37Pbはんだと異なるものでも良いのであるからSn-37Pb共晶合金の共晶組成の融点に縛られることはない。しかし現実的にははんだ以外の材料や設計条件が鉛はんだを前提にいているので必然的に鉛はんだと同等のものが要求される。
 
 材料というのは因果なものである材料が用いられるとその周辺の様々な製造条件がその材料に合わせて作られる。そのため材料の改良は極めて困難になる。例えばある材料の金型ができてそれで大量の製品ができるようになると、少し良い材料ができても金型が満足でない。しかし大きな出費を伴う金型の交換はよほどのことがなければ行われない。
 
 そこで新しい無鉛はんだを設計してもそれに手を加えてSn-37Pb並の融点に合わせることが行われる。即ち第三成分を添加して融点を合わせ、しかる後にその力学的特性を改善する。 この様な目的にBi, In, Sb等を加える。しかし回りくどい方法は時として「毒を入れたのでそれを毒消しで解消する」という様な結果に終わり材料の配合を極めて複雑なものにすることが多い。
 
 ともあれ、無鉛はんだは様々な系が研究され、その代表的なものにSn-9Zn系がある。このはんだは融点が199℃であり、,千住金属の,Sn-Zn-Bi をはじめ、インジウム・コーポレーション,のSn-Zn-In、 ,ATTの,Sn-Zn-In-Bi-Sb等が知られている。

 Sn-3.5Ag系としては千住金属,のSn-Ag-Bi-Sb-Cu、インジウム・コーポレーションの,Sn-Ag-In、及び,アルファ・メタルスが出しているアロイH合金といわれる,Sn-Ag-Bi-Cuがある。
 
 特に日本国内で無鉛はんだとして自由に手にはいるのはアロイHでありこの合金は無鉛はんだの研究には大きな役割を果たした。


4.2  Sn-Pbはんだ

 Sn-Pbはんだはもっとも代表的なはんだであり、Sn62%に共晶点がありその温度は約180℃である。

Figure 41  Sn-Pbの状態図

 Figure 41はBrandesの文献から取ったものであるが、掲載されている出典によって状態図の個々の値は多少の違いがある。例えば、共晶組成は図では61.9% になっているが、62.9% というのが一般的であろう。Sn-37Pb と言う表し方はSn 63 である。
 
 また13℃のところに、α-Sn の転位温度があり、これより定温で生じる脆いスズが有名な「スズペスト」である。スズペストはその命名がショッキングなので有名であるが、実際的にスズペストが問題となることは少ないようである。

R 4-1 Brandes E. A. & Brook, G.B. (Edi). “Scithells Metals Reference Book”, 7th Edition, (1992)
 
  Figure 41とほとんど同じ状態図をFigure 42に示したが、この二つの例で判るように状態図は研究と共に多少変化するし、それをまとめる人によっては重点の置き方が異なるので目的によっては使いにくい状態図と使いやすい状態図があるのはやむを得ない所である。目的が異なればその時にその目的に合致した状態図をその時々で使用するのが良い。

Figure 42  Sn-Pb状態図
R 4-2 Lau, J. H. Edi., “Solder Joint Reliability” Van Nostrand Reinhold, New York (1991)

  Figure 43は 共晶組成(Sn-37Pb) の代表的な光学顕微鏡写真である。

Photo 4-1  Sn-37Pb組織の代表例

 Photo 4-1の8mmが10ミクロンに相当するが、共晶組成のSn-Pbハンダをゆっくりと冷却することによってこの様な微細な構造の材料を得ることができる。ミクロ構造のところで詳細の触れるがSn-37Pbはんだが常にこのような綺麗で細かい構造を有しているわけではない。急冷したり、温度をかけたりした場合には組織が粗大化して一般的にはより荒い組織を持った別の様相を呈する。

 材料というのは本来的にはその使用状態の性能が問題であるが多くの材料においてはそこまで気が回らないのが普通である。はんだの場合もその傾向があるが、はんだはCuなどの金属と接して使うためのものであり、また普通には急冷されるので徐冷して慎重に作った材料の組織図はある意味では重要性が薄いとも考えられる。
 
 しかしその考え方も十分ではない。はんだの場合でも界面の構造はこの写真とは類似してはいないが、それでももともとのSn-37Pbはんだの構造はPhoto 4-1の様であると言うことが前提で議論の進む余地がある。


4.3 Sn-Ag系

 Sn/Ag系ではε相を形成するAg3Snが特徴的で、この金属間化合物の生成速度は比較的早い。
 
R 4-3 Kay, P.J., and MacKay, C. A. “Transactions of the Institute of Metal Finishing”, Vol.51, p.85 (1973)

 共晶組成はSnが大変多い組成の所にあって、Sn-3.5Agである。共晶とはいえ僅かにAgを入れるのがこの系の考え方である。Sn-3.5Agは無鉛はんだとしては欠点は少ない。Agという高価なものを使用するがその使用割合は3.5%であるので価格的な欠点はかなり緩和される。使いにくいと言えば融点が高いので融点を下げなければならないということである。
 
 融点を下げるためにはBi,In等を入れると融点が下がる。そうすると液相線温度は下がるがBiを多く入れることでSn-Bi共晶が140℃程度で出るのではんだとして不都合になる。この様な事情から現在の配合技術では210℃程度が限界と言われている。

Figure 43  Sn-Agの状態図

 Sn-Agの状態図から判るようにSn-3.5Agのはんだの中にはAg3Snの金属間化合物が析出する。この金属間化合物の状態ははんだの様々な特性に影響を及ぼすので無視できない存在である。現在の電子回路は高密度になっているので発熱が大きく、それを防ぐために多くの工夫がされている。しかし電子回路全体の温度が高くなるのは防げない。
 
 そのことを考えるとSn-3.5Ag材料は将来のはんだ材料として望ましいとも考えられる。特にSn-3.5Ag系は融点が高く組織的にも安定であることから経時変化が少なくSn-37Pbに対して高温での組織構造変化が少なく力学特性の低下が少ないのが特徴である。
 
R 4-4 Hansen, M., and Anderko, K., “Constitution of Binary Alloys”, (1958) McGraw-Hill, New York


4.4 Sn-In系

 Sn/In系はそれほど一般的ではない。その主な理由はSn-Inの共晶組成がほぼ50:50の所にあり、この様に多くのインジウムを使うことは少なくとも経済的・資源的に許されないからである。合金としては室温ではIn, In3Sn(β), InSn4(γ), 及びSn相が安定で、これらの金属間化合物ははんだの中に析出する。
 
Figure 44 Sn-Inの状態図
R 4-5 Marshall, J. L., and Walter, S. R., “Fatigue of Solders”, Int. J. Hybrid Microelectr. Vol.10, p.11 (1987)
R 4-6 Marshalll, J. L. “Solder Fatigue in Electronics,” Brazing and Soldering, 1988 (15) , Autumn pp.4-9

 スズインジウム系は柔らかい、融点が117℃と低く、はっきりしない構造を持つ使いにくい合金と考えられているが、合成方法によっては良い構造のものを得ることができる。


4.5 Sn-Bi系

 Sn/Bi系もSn/In系同様に低温でしか使えないという点であまり一般的ではない。Sn/Pb/Bi三成分系は知られているが、Cu/Sn/Bi系は研究されていない。
 
R 4-7 Marshall, J. L. “Solder Joint Reliability, ed. Lau, J.H.” pp.173-225 (1991) Van Nostrand Reinhold, New York

Figure 45  Sn-Biの状態図

 共晶組成の融点は僅かに138℃で極めて低く、定温はんだを作るには適しているが一般的なはんだにはなりにくい。


4.6  Sn-Zn系

Figure 46  Sn-Zn系の状態図


4.7  Sn-Sb系

Figure 47  Sn-Sb系の状態図


(キーワード 環境、無鉛はんだ、材料、名古屋大学、武田邦彦)

5に続く