物価の変化について「差のグラフ」と「比のグラフ」を勉強したところで、次に物価を決める大きな原因の一つとして原油の価格の変化を調べてみます。

 現代は何を作るにもエネルギー源としての石油にお世話になります。石油と言うと少し言い過ぎで、エネルギーは石油だけで成り立っているわけではありません。石炭、天然ガス、そして原子力があります。でも、これらもすべて原油の価格の影響を受けます。

 例えば、原子力発電所はウランを燃やして熱を出し、それから電力を取り出すという仕組みで動いていますが、原子力発電所の大きな建物や運転に必要な機械は石油のエネルギーを使って作られます。

 原子力発電所の発電コストというのは、燃料としてのウランは安いので、電力費に占める燃料費の割合はわずか20%にしか過ぎません。つまり、残りの80%の値段は原油価格で決められますから、原子力ですら原油価格に比例していると思ってもほぼ正しいのです。

 もっと踏み込んで言いますと、「すべての商品の値段は石油によって決まっている」といっても間違いはないのです。

 例えば、鉄の値段を考えてみます。土の中に眠っている鉄鉱石の値段はタダ同然です。この地下に眠る鉄鉱石を掘り出し、トラックで運搬し、一次精錬して船で運び、日本の溶鉱炉で溶かしたり還元したりした後、加工して製品になります。

 この間に使われるものは、エネルギーと機械や建物ですが、話を簡単にして、機械や建物も鉄でできているとすると、エネルギーで決まることになり、さらにエネルギーが原子力も含めて原油の価格で決まるので、鉄の値段は原油で決まるという事になります。

 現代の工業製品は鉄がほとんどで、またエネルギーは石油ですから、結局のところ、価格は原油価格で決まると言えるわけです。

 そこでまず1970年から2004年までの原油価格の変化を見てみることにします。

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 1970年頃は原油の価格というのは非常に低く押さえられていてバレル2ドルでした。1973年の第一次石油ショックで突然、2ドルから10ドルになります。

 1978年には第二次石油ショックが起こり、さらに1985年のプラザ合意へと進みます。第二次石油ショックで原油価格はおおよそ15ドルから30ドルと倍になりました。

 このグラフは「差のグラフ」ですから15ドルから30ドルに変わった第二次石油ショックの方が大きい変化のように見えますが、第一次石油ショックが2ドルから10ドルまでで5倍、第二次石油ショックが15ドルから30ドルと2倍ですから、もちろん第一次石油ショックの方が変化は大きかったのです。

 お金を考えるときには必ず「比のグラフ」を意識しなければ正しく判断できないことがわかります。

 原油の価格は今後も常に注意して見ている必要があります。原油の価格は三つのことを考えながら判断していかなければなりません。一つ目は、全体として石油の消費量は増えていくということです。現代の社会は「エネルギー多消費型」ですから、「発展」=「エネルギー消費量の増加」だからです。特に今後、発展途上国が経済発展するのに合わせてさらに石油を多く消費していくことになるでしょう。

 二つ目は、原油価格が中東の諸国でほとんど決まってしまうということです。彼らは常に原油を値上がりさせながら豊かな生活をしていくという戦略をとりますから、原油価格は上がります。意図的に仕掛けられるという場合もあります。

 そして三つ目が「石油資源が無くなるか?」という心配です。今回の原油価格の高騰は「石油はそろそろなくなっているのではないか」というものでしたが、それが意図的に作られた話なのか、本当にそうなのかは調べてわかるものではありません。歴史が整理するでしょう。

 例えば「あの時代は石油が本当には無くならなかったのだけれども、宣伝をして値段を釣り上げたんだ。釣り上げた張本人は誰だ」ということがはっきりしてくるかも知れません。

 ところで、石油の価格が5倍に上がったのは第一次石油ショック後の1974年ですが、その時には「狂乱物価」と言われ先回の「差のグラフ」でもハッキリわかるぐらいに消費者物価が変わりました。でも、1978年の第二次石油ショックと1985年のプラザ合意ではあまり大きく日本の消費者物価は変化しませんでした。

 このことから石油の価格が消費者物価に大きく影響があるのは、5倍程度、原油価格が上がった場合とも言えます。社会はいろいろな形で石油の影響を消していきますから、2倍程度上がったり下がったりしてもあまり変化は起こらないようです。

 最近の原油価格の上がり方がバレルあたり25ドル程度から50ドル程度に変わるという範囲で止まるのであれば、消費者物価にはあまり大きな影響を及ぼさないかも知れません。現実に原油の値上がりにもかかわらずアメリカの消費者物価が比較的落ち着いているということからもわかります。

 原油が5倍も上がると社会にあるショックを与えるが、2倍程度ならショックは起こらないのでしょう。さて、原油の問題はこれぐらいにして、次回には日本の消費者物価の変化を少し個別に調べてみたいと思います。

つづく