-なぜルーシーのお尻は大きいのか?-

 小柄で、これといった武器を持たず、木の上を逃げ回っていたサルの一種がある時、地上に降りた。それまで手と足を使って木に登っていたのに、二足歩行で地上を歩くようになって足が発達し、背骨は少し湾曲して重い頭を支えられるようになる。

 移動するのに足しか使わないので手が空く。その手をつかっていろいろなことができるようになるし、下あごが発達して言語も複雑になった。これを「ホモ・ルーデンス」という。

 人間の最初の頭の大きさは500ccで私たちの頭脳の3分の1で、現在のゴリラとほとんど同じだった。でも、頭脳は徐々に大きくなり、800cc、1,000cc、そして1200ccと増え、ついに1500ccになった。大きな頭はものをよく考えることができるようになり、人間は「考える葦」、つまり「ホモ・サピエンス」に変身したのである。

 人間の頭はこれからどうなるのだろうか?どんどん、大きくなってSF小説に出てくる火星人のように頭でっかちになるのだろうか?
それがこの話のテーマである。

 人類が誕生してから間もない頃、320万年前にエチオピアのハダールに住んでいた一人の女性がいた。名前は「ルーシー」。といっても遺骨に名前がついていた訳ではない。ルーシーの骨を見つけた人類学者が命名した名前である。

 320万年という気の遠くなるような時間がたったにもかかわらずこの女性の骨は全身の骨の40%が残っていて、それも五体全部が揃っていたので、人類が誕生した頃の様子を教えてくれることになった。

 これからしばらく、女性のお尻の話が続くが勘弁していただきたい。ルーシーの骨が教えてくれたものの一つに骨盤とお産の関係もあった。一見して判るのだが、ルーシーも現代の女性の骨盤はいずれも「どんぶり型」をしている。それに対してチンパンジーの骨盤はまっすぐである。

 つまり、リーシーはすでに直立歩行していて、お産の時にはその骨盤の「どんぶり」のところに赤ちゃんが乗っかるような仕組みになっているのである。

 お母さんのお腹の中で受胎した赤ちゃんは小さい。その赤ちゃんが育っていく時、お母さんがじっと寝ている訳ではない。人間では立って歩くのでお腹の中の赤ちゃんは揺りかごが必要である。それが人間の「どんぶり型骨盤」というわけである。

 そしてもう一つ。

 月が満ち、いよいよ誕生となる。赤ちゃんがお母さんのお腹から出てくる時、チンパンジーのお母さんの骨盤は小さいが、頭もまた小さいので、楽々、骨盤の穴を通過して出てくる。

 ところがルーシーの時代になると人間の頭も大きくなってきたので、そのまま骨盤の穴から出ることができなくなった。お産の時には赤ちゃんは半回転して出る。下の絵の真ん中がそうだが、まず横になり、それから少し角度を変えて出てくる。

 現代人は大変だ。赤ちゃんはほぼ一回転半、グルリと回って骨盤の穴をかわすようにして出る。ちょうど、引っ越しの時に大きな荷物を運ぶとき、角に引っかかるのでかわしながら運ぶ感じである。


 多くの動物は進化に伴って体が大きくなってくる。その例の一つに恐竜がある。あの大きい恐竜も、最初は小さいトカゲのような動物だったが、2億年間の間に徐々に体が大きくなり、遂に地上を支配するようになった。

 恐竜が絶滅し、新生代になり哺乳動物が出現しても事情は同じだった。獲物と戦う肉食動物はもちろん、馬やシカなどの草食動物でも進化と共に体を大きくする。生存競争に勝つためには「体が大きいこと」がもっとも大切だったのである。

 ところが、人間は奇妙な動物で、人間の力は「肉体的な力」ではなく「頭脳の力」、「知恵の力」だった。

 人間はライオンと素手で戦ってもとても勝ち目がない。ライオンは隆々たる筋肉、鋭い運動神経、そして的をかみ殺す牙をもっていて、人間など一撃で倒されてしまうのに、今やライオンは人間によって捕らえられ、遠くアフリカのサバンナから日本の動物園へと運ばれ、そして見世物となっている。

 ライオンにとっては不思議なことに違いない。

 なぜライオンは百獣の王であるにもかかわらず人間に捕らえられているのだろうか。それはライオンより人間の方が脳の情報量が多いからである。人間の頭脳情報は力であり、情報はライオンの筋肉より牙より強力な武器なのである。

 恐竜は進化と共に体が大きくなり、人間は進化と共に頭脳が大きくなった。それは進化しなければ生き残れないという自然界の掟がある限り、仕方ないことであったが、人間には一つだけ悩みがあった。

 それは「女性のお尻が大きくなってくれない」ということだ。もし、女性のお尻が大きくなってくれれば、頭がもう少し大きくなってもお母さんのお腹から出てくることができる。頭が大きければ脳細胞の数も増え、さらに頭が良くなり、淘汰に勝ち残ることができる。

 人間の体は、足も手も、胴体もその中心近くに骨があって支えている。そして肉がつけば皮膚が伸びて大きくなる。つまり食べれば太ることができる。

 でも頭だけは違う。外側に骨がかぶっているので、いくらご飯を食べても外へは太ることができない。頭を大きくしたい受験生でも、相撲取りのちゃんこ鍋に相当するものはないのである。

 お尻の大きい女性は頭の大きい子どもを生むことができる。頭の大きい子どもは脳細胞が平均的に多くなるので、頭が良い。だから「お尻の大きい女性は、頭のよい子ができる」と言うことになるのである。

男性の頭の善し悪しは女性のお尻の大きさで決まる・・・

 将来、もし現代人に変わる人間が登場するとしたらどういう種族だろうか?まず、突然変異でお尻の大きい女性が出現するか、または10歳頃になると頭蓋骨が割れて「脱皮」をして新しい大きな頭蓋を作る人間ができるか?

 あるいは、「軽くて強い頭蓋骨製造会社」ができて、医師と連携し、定期的に頭蓋骨を取り替える簡易な手術が行われるだろうか? それで、この歪んだ人間の頭脳をますます大きくするのではなく、より人格高潔で他人の痛みもわかる頭脳を持って欲しいが、そうならないような気がする。

 むしろ今のまま、女性の大きなお尻につられて、つい後を追ってしまうぐらいの方が良いのだろう。

(おわり)