この世には不思議なことが多い。岩、海、塩・・・何も動かない、何も起こらない死の世界、そんな原始の地球から、どうして「生命」が誕生したのだろうか? 気候は荒々しかったし、温度も高かった。それに酸素も無かった。

 できたばかりの地球は毎日が嵐で気温は激しく上下していたのだ。「異常気象」どころではない。そんなところで生命が誕生するはずはない。それでは地球上に生物がなぜ存在するのか? それは最近まで人類の最も大きな謎の一つだった。

「人類にとって解くことのできない巨大な謎」は「生命誕生の秘密」だけではない。日常生活の至る所に謎があり、その多くはごく最近になってわかったことである。

「この平らな地面を、ずっと東に歩いていくと最後はどこに行き着くのか?」
・・・(答え)地獄に行く。

「夕方になると太陽は沈んでしまうが、夜は太陽はどこにいるのだろう?」
・・・(答え)毎日、沈んだ太陽は死に、新しい太陽が産まれて昇る。

「手を離すとなぜ物は下に落ちるのだろう?」
・・・(答え)地下に悪魔がいて引っ張っている。

「人間はなぜ病気になるのだろう?」
・・・(答え)体に悪霊が憑くから。

 4番目の謎は現代の人間には考えにくいぐらいだ。細菌によって病気になることは19世紀にパスツールが鶴首の実験をするまでわからなかったのだから、悪霊以外の説明は不可能だったのである。

 そんな「巨大な謎」の一つに「太陽の燃料は何だろうか?」というものがあった。

 太陽は地球から遠い。それは昔からわかっていた。でもあんなに遠いのに日向ぼっこすると暖かい。だから太陽で何かの燃料を猛烈に焚いているのは間違いない。とはいっても、薪や石炭を焚いてもあれほどの熱は出ないし、第一、太陽から煙が出ていない???

 この謎には19世紀の後半にドイツのヘルムホルツという大学者が取り組んだ。その結果、太陽は石油でも石炭でもなく、「重力エネルギー」が徐々に減ってその分だけ熱が出ると結論した。さすが大学者で石炭などといった日常的なことは言わない。重力エネルギーだと結論した。

 さすが大学者である。あまり知識が無ければ重力エネルギーなどというものすら考えつかない。薪、石炭、油などを思い浮かべて頭を抱えるのがせいぜいである。

 しかしさらにヘルムホルツが詳細に研究すると、太陽の大きさから考えて10億年ぐらいしか光らないはずだということもわかってきた。そうなると、地球が誕生してから46億年になるからこれも計算が合わない???

 この謎を解いたのがキュリー夫人だった。彼女はラジウムの研究を通じて「原子力」というものを発見したのである。そして、この新しいエネルギーはそれまで人類が知っていたエネルギーと違って、少しの物質で膨大な熱を出すこともわかった。

 ヘルムホルツが解けなかった謎、太陽の光と熱は原子核反応だったのである。太陽では水素、重水素、そしてヘリウムが核融合し、その時に僅かな「質量欠損」が起きる、つまり重さが減る。その重さ分のエネルギーが放出される。

 キュリー夫人の発見から5年ほどしてアインシュタインが相対性原理を発表し、「質量とエネルギーは同じだ」という驚くべき式を出した。

E = mc 2

 それまで「物は物」「光は光」「熱は熱」と思っていたのに、「物」が「熱」に変わるというのだから驚く。そしてそれは架空の話でも何でもない。晴天に光る太陽、それは目で見ることのできる「物から光へ」と変わっている反応、そのものなのである。

 太陽は核融合、つまり原子力だから、それを私たちはこの目で見ることが出来る。そして、太陽が光り続けていること、煙が出ないこと・・・太陽に関する多くの謎は一気に解けたのである。

 でも、それがわかったのは、今からわずか100年前である。猿から人間が誕生したのが600万年前、現代の人間とほとんど変わらないネアンデルタール人が活躍したのが15万年前、そしてインダス文明、メソポタミア文明などの4大文明が6000年前である。だから、今から100年前というのは「つい最近」である。それまでずっと人間は「なぜ?」に答えられない生活を送っていたのである。

 しかし、知識は大切だが、人間を幸福にする訳ではない。

 単に「太陽が光る原因がわかった」というだけだ。謎のままに残っていると気持ちが悪いという人には知識としては役に立つが、太陽がどうして光っているのかなどは日々の生活に「どういう関係があるの?」と聞かれると返答は難しい。

 知識そのものは人間の野次馬根性を満足させるか、あるいは予防できることが予防出来るようになるぐらいで、人間の幸福に直接作用するものではない。それでも人類は確たる理由は無いが、少しずつ少しずつ「神の書いた自然の聖書」を読み解いていったのである。

つづく