環境に優しい生活運動の一つとして「マイバッグ運動」というものが始まった。私も環境に良い生活をしようと思ってはいるのだが、なかなか良い方法が見つからないので早速、マイバッグ運動をしようかと思った。スーパーによってはマイバッグを持って来た場合には5円を割引するところもあるという。

 環境省も多くの専門家、環境団体もマイバッグ運動は環境に良いと言っているし、自治体や大手スーパーもこぞってマイバッグ運動を進め、「何リットルの石油を節約できた」と広報している。国や自治体そして多くの専門家がマイバッグ運動は環境に良いと言っているのだから私もやってみることにした。

 しかし私の場合、毎日スーパーに行って買い物をするいわゆる専業主婦ではない。大半は大学にいるし学会などで頻繁に出張する。それに単身赴任の生活だから、自分がスーパーやコンビニエンスストアに寄る時のために出張のカバンの中にいつも買い物袋を入れておくのも大変だ。

 おそらくこれは私ばかりでなく、小さなハンドバックしか持ち歩かないような女性の方ではますます大変かも知れない。そんな辛いことはあるけれども環境を守るためなら仕方がないかもしれないし、もしかするとそのうちには環境運動の影響でスーパーには袋が無いということになるだろう。

 マイバッグ運動をしている人の話を聞くと、だいたい国民一人1日1袋ずつ使うらしい。つまり、日本の国民はだいたい1億人だから、毎日1袋使うと1年当たり一人で300枚。国民全部で300億枚という大きな数になる。だから袋が無くなると石油の使用量は減るだろう。

 大学に電子天秤という非常に精度の高い秤(はかり)があるので、私が今日、スーパーでもらってきた袋の重さを測ってみたところ、5グラム程度だった。その袋は少し大きなものだったので、昨日コンビニエンスストアで貰った小さな袋を測ってみたところ、3グラムだった

 私は1日当たり、平均すると1袋ずつ使うので、そうすると300日で合計1.5kgになる。つまりスーパーやコンビニエンスストアでもらう袋の全体量は1年で1.5kgだ。

 私の家の近くにスーパーがあり、そこまでの距離は1000メートルぐらいだ。だから、出張から帰ったら自宅に帰り、そこで専用のマイバッグを持ってスーパーに行ったらどうかと考えた。そこで「差し引き計算」をしてみることにした。

 私の車は少し旧型の車なのでガソリン1リットル当たりだいたい10kmぐらい走る。だから、スーパーに往復すると2kmでガソリンは0.2リットルで済む。値段にすればガソリン代は24円というところだ。ガソリン0.2リットルというと150グラムだ。

 スーパーの袋は5グラム、スーパーに車で行くのは150グラム。同じく石油を使うので、スーパーに自動車で行ってはダメなようだ。どうも、スーパーの袋が大変に軽いので使用する石油の量も少なく、自動車でスーパーに行くなどまったくダメで、1回エンジンをかけただけで走らなくてもスーパーの袋ぐらいのガソリン代は飛んでしまう。

 私はあまり環境優等生ではない。3日に1度は車に乗る。乗り方もそれほど節約に心掛けて乗っているわけではない。ちょっとどこかに寄ろうと思うこともあるし、つまらないことを思い出して家に引き返すこともある。5分ぐらい余計に走ってしまうなどというのは日常的なことである。5分で5キロ走るとするとガソリン消費量は500ミリリットル。400グラムぐらいは使ってしまうので、それだけで4ヶ月分の袋に相当する。

 それに私は材料を専門にしているのでつまらない知識がある。

 スーパーの袋というのは石油から作られるが、石油は昔の生物の死骸である。昔の生物はマイバッグ運動などを知らないので自分の体の組成のままで死んでいる。その死骸を使おうとするとどうしても人間の欲しい原料と合致しない。専門的な話になるが石油のうちで化学的な原料になるものは少ないけれどもスーパーの袋の原料になるものは余っている。

 スーパーの袋をもともとタダでくれるのは余った石油を使ってできるものだからだ。値段にすればせいぜい0.5円、つまり1袋だいたい50銭ぐらいでできる。袋にするとそのぐらいの値段が付くが、石油の原料としてはだいたい0.1円、つまり10銭ぐらいのものである。

 もしもスーパーの袋がもったいないからといって全部止めてしまえば、もともと量が少ないので大した影響が無いけれども、その組成の分が余るので石油化学コンビナートでは煙突から煙を出して燃やしてしまうだろう。燃やすぐらいだったらマイバッグよりもスーパーで袋をもらった方が環境に良いような気がする。

 ただ、最近スーパーの袋にごみを入れて捨てると怒られることがある。せっかく物を大切に使おうと思ってスーパーでもらった袋にごみを入れて捨てているのだから、それを怒るのは変な話だが、なにしろ怒られる。ごみは指定の袋でなければいけないということになったらしい。けれども、スーパーの袋は便利だし、それにごみを入れて出した方が随分環境に良いと思う。

 環境に優しい生活をしようとするのは大変だ。第一いろいろな知識が邪魔してしまう。私の研究室に電子天秤が無かったり、ガソリンの消費量を計算できなかったり、石油から何が作られているかということを知らなければ、私はマイバッグ運動をしていたかも知れない。

 でも私は変な知識を持ってしまっている。ごみをスーパーの袋に入れて捨ててもまったく問題の無いことも知っているし、「指定のゴミ袋」に自治体と業者の癒着構造があることも少し理解している。だから、どうも素直になれない。

 マイバッグの代わりに買い物かごを持っていけば、その部分にだけ着目して5グラムの石油を節約できるかもしれない。でもそのためには、買い物袋を買わなければいけないし、時には洗わなければならないだろう。そして何十回も使っていれば傷むだろう。

 石油としては一枚10銭だから一年に300枚として30円。50銭としても150円だ。買い物袋を450円で買って3年使ったら、一度も洗わなくてもトントンだ。どうしても計算に合わない。

 精神的な活動なのだろうか?環境を汚しても精神的に満足すればそれで良いというのがマイバッグ運動なのだろうか?そうとは思えない。私が知っているマイバッグ運動を行っている人は真面目な人が多い。

 近いうちにマイバッグ運動をしている人に一度お聞きしてみたいと思う。自分が環境に良いと思っていても、本当は環境を悪くするのなら、子孫に申し訳ないからだ。

つづく