高等学校ぐらいだと思うが、「理想気体の状態方程式」という式を学ぶ。理科系の人なら誰でも知っているような式である。
PV = nRT
P は圧力、V は体積、n はモル数、R は気体定数、T は温度である。
今回は、この式のことを少し考えてみたい。PV というのは、圧力と体積のかけ算だからエネルギーだろう。そしてnRT も温度だからエネルギーのように思う。でもT は温度だから「量」ではなく「強さ」だ。
太平洋の水がどんなに多くても温度が20℃なら火傷はしない。コップ一杯の水は量が少ないけれど温度が100℃なら火傷をする。このように「量」と「強さ」は少し違う。「量」の多い高見山に押されてケガをするのは高見山の強さが強いということもあるが、量が大きいからだ。
ピンがお腹に刺さればケガをする。ピンは小さい物で量は小さいが、力の強さが大きい。つまり「量」と「強さ」は違う。PV の例で言えば、P は強さでV は量だ。どうも、この世の中は強さと量のかけ算で決まっているらしい。
そうするとn やR が量なのだろうか?温度と一対になる量はエントロピー(S )であって、R やn ではない。そうすると、どうも「理想気体の状態方程式」はおかしい。PV の方は強さと量があるのに、T の方は強さしかない。
もともと気体定数R というのは温度の単位とエネルギーの単位の架け橋のようなもので、単位は8.314 J/(mol・K)である。つまり温度K当たりどのぐらいのJ/molであるかを示していて、これは温度の単位を勝手に決めたからである。
温度の単位は、水が氷になる温度を0℃、水が沸騰する温度を100℃として決められた。厳密な定義は少し違うけれど、もともとそういうものである。それを100等分したのだからいかがわしい。水が固体になるのと気体になる温度を100で割るためには、それが100であることを証明しなければならないが、その方法は無い。
だから、温度の単位はいい加減であることがわかる。℃を絶対温度Kに直しても同じだ。単に基準を0℃にするか、絶対温度にするかであり、1℃と1Kの幅は同じだからだ。もし8.314 J/molに相当する幅を1℃にするならば、直ちに
R = 1
になる。
紛らわしいことにR を英語ではgas constant、日本語では気体定数という名前が付けられている。「名前なんかどうでもよい」と言うかも知れないが、科学では名前は大切だ。確実に他人に伝えなければならないから、いい加減な伝達や以心伝心は適切ではない。
気体定数というのは「温度-エネルギー換算係数」と言わなければならない。もし温度をエネルギーと関係して決めれば、R は覚えなくても良い、つまり1.0であることを言った方が良いと私は思う。私も受験時代、R = 1.987 cal/(mol・K)とか8.314 J/(mol・K)とか覚えたものである。実にバカらしい。
それはともかく、もし温度の単位を今より120倍ほど変えると、理想気体の状態方程式は、
PV = nT
となる。ここでn がT 側に来ているのはあまり意味が無い。モル数が多ければ体積が増えるということだから、むしろ、
P (V /n ) = T
とするのが良いだろう。つまりn というのは「量」を表すので、n はV と一緒の方が良い。モル当たりの体積に圧力をかけるとその物質の気体の状態のエネルギーになるというのは納得性がある。
この式のV /n をモル体積として小さなv で示すと、理想気体の状態方程式は
T = Pv
となる。これはスッキリしている。
この式になると頭を刺激する。温度と圧力は同じなのだ! ただ圧力にモル体積がついているがモル体積というのは値が決まっているから、温度を測れば圧力がわかり、圧力を測れば温度がわかるということも理解できる。
しかし、それでもなお、納得できない。それはT が「力」を表すのに対して、Pv は力と量の積だからエネルギーのはずである。片方が力で片方がエネルギーというのでは等式ではない。何か、温度の方で間違いがある。
おそらく、
E = PV -TS
だろう。つまりPの相手はVであり、Tの相手はSだからだ。理想気体ではエネルギーがゼロとすると、
0 = PV -TS
つまり、
PV = ST
ということになる。
これなら納得がいく。どうやら、実験式と思われていた理想気体の状態方程式は単にPV = ST という関係を示しているのではないか。それなら良い。そしてS =1の気体が理想気体だから、
PV = ST
というのは、
Pv = T
と同じだ。
ここでV がv になったのはS も量であるからモル数n に比例する。だから、
PV = ST
と書く時は良いが、S = 1というのは1モルで1だから、いずれにしても量を議論する時にはn がいるからである。
つづく